ラボテック株式会社海外での技術指導を想定し
協力隊経験者を採用

  • グローバル人材の育成・確保

美しく豊かな地球環境を次世代へ―。こうした理念を掲げ、環境分析サービスと分析機器の開発・販売を手掛けるラボテック株式会社(広島市)は、セネガルの国立土壌研究所へ土壌分析機器を納入することになったのを機に、青年海外協力隊経験者を社員として採用。さらに民間連携ボランティア制度を活用し、同社員をセネガルの研究所へと派遣した。日本の中小企業が持つ技術・製品の海外展開に連動したこの社員派遣について、同社代表取締役社長の吉川惠(きっかわ・めぐみ)さんに、その経緯や目的などについて話を聞いた。

元JICA専門家が立ち上げた新事業

日本では、私たちの健康を維持し、生活環境を保全していくために環境基準が定められています。例えば工場の排水や排気にも厳格な排出基準があり、事業者はそれをクリアーしていることを定期的に確認し、第三者に証明してもらう必要があります。当社は、さまざまな事業者にこうした環境分析サービスを提供するとともに、大手メーカーでは扱っていない、「こんなものがあれば便利」という現場の声に応える分析機器を開発しています。

当社は長年、環境分析を専門とする企業として地元広島県を中心に事業を行っていたのですが、需要が先細りになることが見え始め、事業の多角化と海外展開にも目を向けていく必要性を認識するようになりました。ちょうどそのころ、縁あって当社に来てくれたのが、現在、常務取締役をしてもらっている大野一之(おおの・かずゆき)さんです。

もともと金融機関に勤めていた大野常務は、2003年5月から数ヵ月間、JICA専門家として、ケニアで農民を対象としたマイクロファイナンス(少額融資)の制度づくりにかかわった経験の持ち主でした。大野常務は入社後、その経験を生かしてケニア産フェアトレード商品の開発、輸入、販売を行う食品事業チームを立ち上げるなど、事業の多角化、そして海外展開の第一歩を踏み出してくれました。

ケニアとのビジネスを続けていく中で、大野常務は2012年の11月に約10日間、JICAの「アフリカ使節団」として、セネガルとエチオピアを訪問する機会に恵まれました。アフリカ使節団は、日本の民間企業の経済活動を通じてアフリカの持続的な経済発展に貢献していくために、現場視察を通してアフリカ市場の現状を知ってもらおうと、JICAが実施していたものです。そしてこのアフリカ使節団への参加が、その後、思いもよらない展開を見せることになったのです。

写真右から代表取締役社長の吉川さん、常務取締役の大野さん、新事業開発室の大塚さん

協力隊経験者を採用し
民間連携ボランティアとして派遣

使節団に参加したことで、アフリカでも日本の農業のための土壌分析技術や分析機器に対するニーズがあることが分かり、当社としても何とかビジネスにつなげていきたいと考え、JICAの「アフリカ開発のための民間技術導入可能性調査」に応募しました。運よく採択され、使節団として訪問したとき特に高いニーズを感じたセネガルを対象に調査した結果、国立土壌研究所のサンガルカム支所に土壌分析機器が導入されることになったのです。

セネガルの首都ダカールから車で40分ほど走ったところにあるサンガルカムは、野菜の栽培が盛んな地域なのですが、土壌ごとに適切な施肥や栽培作物の選定が行われていないために生産性が低く、農民の所得も上がらないといった問題を抱えていました。そこで土壌を分析する機器を導入することになったのですが、その機器を効果的に活用していくための技術指導をお願いしたいという要望がありました。そこで当社は、民間連携ボランティア制度を活用し、社員を青年海外協力隊として派遣したいと考えました。しかし、問題はだれを派遣するかでした。社内に海外で仕事をした経験のある人といえば大野常務だけです。しかし、役員を長期間、海外に派遣することは現実的ではありません。

「協力隊経験者を採用してはどうだろう」

そこで当社は、アフリカで活動していた協力隊経験者を採用し、土壌分析の基本や分析機器のメンテナンス方法を学んでから派遣した方が現実的ではないかと考えたのです。昔と違い、基本的な分析をする機器はほぼ自動化され、それほど難しい技術を求められるわけではありません。逆に言えば、扱いが難しく、高い専門知識が求められるような分析機器が導入されても、使われなければ無駄になってしまいます。

JICAが運営する情報サイト「PARTNER」に求人を出したところ、2007年から2年間、マラウイで村落開発普及員として活動していた大塚善久(おおつか・よしひさ)さんが応募してくれました。大塚さんは、広島県のJICA窓口としてひろしま国際センターに勤務していたのですが、ちょうど契約期間が終了するタイミングと重なったのが幸運でした。大塚さんとは業務の関係でよく連絡を取り合っていたこともあり、当社の取り組みをよく知っていたのです。

マラウイで協力隊として活動していた当時の大塚さんは、村の女性たちと特産品のマンゴーを使ったドライマンゴーやジャムを開発し、現金収入の道を開いた

帰国後は新事業開発室でマーケティングを担当

入社後、大塚さんには約1年間、セネガルで土壌分析の技術指導を行うことを想定し、環境・土壌分析の基礎と分析機器のメンテナンス方法をしっかりと身に付けてもらいました。そして2015年1月から半年間、青年海外協力隊として、国立土壌研究所のサンガルカム支所で職員らを対象に技術指導を行いました。

なかなか計画通りに進まないこともあったようですが、そこはさすが協力隊として二回目の派遣というだけあって、半年後には現地の職員だけでも土壌の分析と機器のメンテナンスができるようになりました。当社が納品した分析機器と技術協力が周辺農家の所得向上につながるというのは、本当にうれしいことです。短期間でこれだけしっかりとした成果を残すことができたのは、協力隊での経験があったからだと感じています。

活動を終え帰国した大塚さんは、新事業開発室でマーケティングを担当しています。特に今、力を入れているのが、超音波でイノシシやシカなどを追い払い、農作物を食害から守る害獣忌避プロジェクトです。

広島県ではイノシシによる食害だけでも、その被害額は年間数億円にもなるのです。これを何とかしようと、県立広島大学と地元建設会社、そして当社が共同で開発したもので、「NIGETEC」という製品名で2015年10月末にモニター販売を開始しました。この製品名は、社名の「ラボテック」と動物たちが「逃げていく」をかけたものです。イノシシやシカの食害に頭を悩ます全国の山村、東日本大震災の被災地で空き家が多くなってしまっている地域などでも需要があるはずと、大塚さんが積極的にアプローチをかけた結果、少しずつ注文もいただけるようになっています。こうした積極性やコミュニケーション能力も、協力隊経験者の持ち味の一つではないでしょうか。

また今後は、環境汚染が深刻な状況にある中国や工業化が急速に進むベトナムなど、当社の環境分析技術や分析機器を必要とするマーケットは確実に広がっていくと考えています。こうしたアジア諸国に向けた事業展開でも、語学力があり、バイタリティーあふれる大塚さんに、先頭に立って引っ張っていってほしいと期待しています。

セネガル国立土壌研究所サンガルカム支所で分析機器のメンテナンスを指導する大塚さん(写真右)

PROFILE

ラボテック株式会社
創業:1990年2月
所在地:広島市佐伯区五日市中央6丁目9-25
事業内容:環境分析、測定、調査および分析機器の開発、製作、販売
従業員数:62人(2016年4月現在)
協力隊経験者:1人(2016年4月現在)
HP:http://www.labotec.co.jp/index.html
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